2013年8月15日木曜日

将太の寿司1

将太の寿司1


寺沢 大介(講談社)

420円

1992年からマガジンSPECIAL で連載が始まりその後、週刊少年マガジンに移籍し続編の「将太の寿司〜全国大会編〜」を含め2000年までの8年間続いた、一人前の寿司職人を目指す少年・関口将太の成長を描いた1990年代の週刊少年マガジンを支えた作品の一つ。


作者の出世作「ミスター味っ子」の主人公・味吉陽一(あじよし よういち)は中学生ながらもプロ顔負けの料理の技術を持ち、独創的な発想で斬新な料理を作り上げる天才肌の少年料理人ですがこの「将太の寿司」の主人公・関口将太(せきぐち しょうた)は連載初期は寿司職人としての技術、知識は半人前で勤務先の鳳寿司(おおとりずし)では雑用しか任せてもらえません。

しかし”一日でも早く一人前になって自分の店を持ちたい”という情熱を持ち、地味ながらも基本的な技術を一つ一つ身に付けていき、ライバル職人達と競い合いながら成長していきます。

主人公が”天才”ではなく普通の少年で努力しながら一つ一つ課題をクリアして成長していく”スポ根=スポーツ根性”漫画ならぬ”料根=料理根性”漫画です。

今回紹介する一巻はマガジンSPECIAL 掲載時のエピソードで週刊少年マガジン移籍後のものと比べると将太の出身地、鳳寿司で修行するようになるきっかけ等の設定が若干異なります。

週刊少年マガジン版だと将太が寿司職人を目指すきっかけも含めて詳しく描かれていますし、小樽時代のライバル・笹寿司(ささずし)が悪辣、卑怯なのでよりいっそう主人公・将太に感情移入しやくすなります。


サヨナラの桜巻き・・・・父親が病に倒れた事がきっかけに家計を助ける為、関口将太は高校を中退し寿司職人を目指して名店・鳳寿司で修行を始める。

一年後、鳳寿司に将太の高校時代の同級生・藤原美智子(ふじわら みちこ)が客として訪れる。

高校時代、美智子に好意を抱きながらも素直に気持ちを伝えられずに後悔していた将太。

美智子が卒業と同時に家庭の事情で年上の男性と結婚すると知った将太は美智子への餞(はなむけ)として自分が握った寿司を食べてもらいたいと考えるが鳳寿司の親方から

「相応の握りが出せなきゃ店の恥になる。おめぇの握りには”型(かた)”がねぇ、型なしだ!!」

と一蹴される。

美智子の卒業まで一ヶ月。
その間に将太は親方を納得させる寿司を握れるようになる事が出来るだろうか?


・・・・この回でキーとなる寿司はタイトル”サヨナラの桜巻き”が示すように巻き寿司です。一ヶ月、みっちりと握りの練習をしたのに・・・・と思ってしまうのは自分の都合を相手に押し付けようとする自分本位の考え方なんでしょう。

「将太の寿司」を読み進めていくとこの先

小手先の技術よりも食べる人の気持ちを思いやる心配りが大事

という職人の心構えが何度も繰り返し語られるのですが、自分が一ヶ月練習した握り寿司だけにこだわらずに相手の心に響く巻き寿司も出した、ということは将太はこの時点で職人の心構えを誰に教えられる事もなく理解していたんですね。

親方「どんな名人、上手の作る料理でも今の将太の握る寿司より感動させる食い物はめったにねえぞ・・・!!」

父ちゃんの寿司・・・・同級生・藤原美智子との別れの日以降、将太は時間をみつけては兄弟子達に寿司の握りの練習をみてもらうようになった。

兄弟子・小政(こまさ)は将太の握る寿司はシャリとネタの”型”は良いが型を整えるまでに手数がかかりすぎてシャリがおにぎりのように固くなっており食感が悪い、と指摘する。

五手で一貫を握るのが基本でそこから四手、三手と手数を減らしていけるのが一流の職人なのだが今の将太は一貫握るのに七手かかっていた。
寿司職人の世界では一手減らすのに五年はかかる、と言われ一人前の寿司職人への道のりは長い、と実感する将太。

そこへふらっと将太と同じ位の年頃の少年が客として鳳寿司へやって来た。

横柄な態度の少年は小政の握った寿司を一口食べるなり

「俺の方がもっとましな寿司を作れる。勝負に勝ったら十万円いただくぜ!」

と言い放つ。

将太達が見つめる中ツケ場に立った少年はなんと、たったの一手で理想的な型の寿司一貫を握ってみせた。


超一流の腕を持っていた寿司職人”名人・佐吉”。一流ゆえに同僚の職人やお客にまで傲慢な態度をとるようになって周囲から相手にされなくなって落ちぶれた、という設定の割りに回想シーンではお客さんと普通にコミュニケーション取れてます^^;

回想シーンを見る限り(あの店の大将はクチは悪いけど人は悪くない)という感じでお客さんから愛されているように見えるので店の売り上げが急に悪くなったのは接客態度の良し悪しじゃなくて近所に激安の回転寿司チェーンでも出来たんじゃないか?それを自分の態度が悪いからだ、と考えて反省しているのなら佐吉は性格が悪いどころか真面目な人なんじゃないだろうか?と本筋からずれたところで色々と考えてしまいました。

わさびの気持ち・・・・少しずつだが確実に成長している働きぶりを親方に認められて今までは下ごしらえしか任せてもらえなかった小鰭(こはだ)の”酢〆(すじめ)”も任せてもらえるようになった将太。

ある日、鳳寿司にわさびを納めている小松わさび園の従業員・小林美那子(こばやし みなこ)が新しく作った新種のわさび”伸太郎”の味見をして欲しい、と尋ねて来る。

寿司職人の端くれでありながら寿司とは切っても切り離せない”わさび”について無知だった将太は美那子からアドバイスを受けるうち、わさび生産に携わる人達の気持ちを理解していくのだった。


将太、もうちょっと腹黒く要領良く生きられないのか?美那子の事が気になっているなら恋敵を美那子の元へ戻るように説得しなくてもいいのに・・・・と考えてしまうのはきっと私の性格に問題があるのでしょう^^;

「ジョジョの奇妙な冒険 第四部 クレイジーダイヤモンドは砕けない」の中で岸辺露伴が漫画の登場人物は読者に好かれるような性格じゃなきゃ駄目だ、と言ってたのを思い出しました。その点、将太は主人公としては満点です。



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